人的資本の可視化とは?指標・KPIと情報開示の進め方まで解説
この記事のポイント
人的資本の可視化とは、人材の価値を離職率やエンゲージメントスコアなどの指標に置き換えて把握し、情報開示につなげる取り組みです。可視化指針の7分野19項目やISO30414を参考にKPIを設定し、経営戦略と結びつけたロードマップで開示を進めます。
「人的資本の可視化を求められているけれど、どの指標を選び、どう情報開示までつなげればよいのか分からない」
こうした疑問に答えます。
本記事の内容
本記事の内容
- 人的資本を可視化する意味と可視化指針の位置づけ
- 開示で使う指標とKPIの決め方
- 情報開示の項目と進め方、ツールの選び方
人的資本の可視化とは、人材の価値を指標に置き換えて把握し、開示につなげる取り組みです。
指標の選び方から開示のロードマップ、支援ツールまで理解すれば、自社の人材戦略を投資家へ説得力を持って伝えられます。まずは全体像から確認していきましょう。
人的資本の可視化とは
人的資本の可視化とは、人材が持つ知識や経験、スキルといった価値を数値や指標に置き換えて把握し、社内外へ伝えられる状態にする取り組みです。タレントマネジメントとは何かを考える上でも、感覚的に語られてきた人材の価値を投資家や社員が理解できる共通の言葉に変える作業といえます。
人的資本の可視化が持つ意味
人的資本の可視化は、人材を「コスト」ではなく「価値を生む資本」として捉え直すところから始まります。人が研修や日々の業務を通じて能力や意欲を高め、企業の付加価値を生み出す源泉になるという考え方が土台です。
この価値は、放っておくと経営者や人事担当者の頭の中だけにとどまります。離職率や従業員エンゲージメント向上の度合いを示すスコア、研修投資額といった指標で表すことで、初めて外部の投資家や社内の関係者と同じ土俵で議論できるようになります。
人的資本可視化指針の位置づけ
人的資本可視化指針は、企業が人的資本の情報を整理し外部へ発信するための「思考のフレームワーク」であり「対話のたたき台」です。2022年8月に内閣官房の非財務情報可視化研究会が公表しました。
2026年3月23日には、内閣官房・金融庁・経済産業省が改訂版を公表しています。改訂版は第1部「経営戦略と人材戦略の連動」と第2部「4つの要素に従った開示」の2部構成となり、国際基準を踏まえた具体的な進め方が加わりました。法律で細部を縛るものではなく、各社が自社の状況に合わせて活用する指針という点が特徴です。
可視化が注目される背景
可視化が急速に広がった背景には、海外の制度整備があります。2020年に米国証券取引委員会がRegulation S-Kを改訂し上場企業へ人的資本の開示を求め、欧州でも非財務情報の開示規制が先行しました。
国内では、企業価値に占める無形資産の割合が高まり、財務諸表だけでは企業の実力を測れなくなっています。ESG投資の拡大も相まって、人材への投資状況を数値で示す必要性が強まりました。
可視化と人的資本経営のつながり
人的資本経営とは、人材の価値を最大限に引き出して中長期的な企業価値向上へつなげる経営のあり方です。可視化はその実践を支える土台となります。
現状を数値で把握できなければ、どこに課題があり、どの施策へ投資すべきかを判断できません。可視化によって現状と目標のギャップが見えるため、人材戦略と経営戦略を結びつけるための出発点になります。
人的資本の可視化で押さえる指標とKPI
人的資本の可視化では、どの指標を選ぶかが成果を左右します。指標には整理の枠組みがいくつもあるため、まず全体像をつかんでから自社に合うものを選ぶことが大切です。
開示指標を整理する4つの視点
人的資本可視化指針は、開示する指標を4つの視点で整理する考え方を示しています。企業がどこに力を入れて情報を出すかを判断するための軸になります。
- 価値向上、人材投資が企業の成長にどうつながるかを示す
- リスク管理、人材の流出や労働環境の課題を抑える
- 独自性、自社ならではの人材戦略を伝える
- 比較可能性、他社と比べられる標準的な数値を出す
価値向上と独自性は自社の強みを語る指標、リスク管理と比較可能性は投資家が安心して比較できる指標です。両方をそろえると開示の説得力が高まります。
7分野19項目で示される指標
可視化指針では、開示が望ましい項目として7分野19項目が例示されています。それぞれの分野に具体的な指標がひもづきます。
| 分野 | 指標の例 |
|---|---|
| 人材育成 | 研修時間、研修費用、スキル習得率 |
| エンゲージメント | エンゲージメントスコア、eNPS |
| 流動性 | 離職率、定着率、採用充足率 |
| ダイバーシティ | 女性管理職比率、男性育児休業取得率 |
| 健康・安全 | 労働災害件数、休業日数 |
| 労働慣行 | 労働時間、苦情件数 |
| コンプライアンス | 通報件数、研修受講率 |
自社の経営課題に近い分野から指標を選び、必要に応じて離職防止ツールなどの施策と組み合わせると、開示の焦点がより明確に定まります。
国際規格ISO30414の指標
ISO30414は、2018年に国際標準化機構が公表した人的資本の情報開示ガイドラインです。人材マネジメントを11の領域に分け、58の測定基準を示しています。
社内向けと社外向けの両方の報告に使える点が特徴です。国際的に通用する枠組みのため、海外投資家を意識する企業や、認証取得を目指す企業が参照します。
人的資本ROIの考え方
人的資本ROIは、人への投資からどれだけの価値が生まれたかを数値で表す指標です。投資の効率を測る代表的な物差しとして注目されています。
ISO30414の2018年版では分母となる投資を給与と福利厚生に限っていました。改訂では外部労働力や採用、学習・開発への支出も含める形へ広がり、投資範囲をより実態に近づける流れになっています。
KPIを決める手順
KPIを決めるときは、いきなり指標を並べず、目指す姿から逆算します。次の流れで進めると経営戦略との結びつきが保てます。
- 経営戦略から達成したい最終目標(KGI)を定める
- 目標達成に効く人材課題を特定する
- 課題の進み具合を測る指標をKPIとして選ぶ
- 数値を定期的に測り、施策の効果を検証する
離職率の維持やエンゲージメントスコアの向上などが最終目標の例です。指標が低い部署を見つけたら、1on1ツールを用いた1on1の導入や業務負荷の見直しといった改善策へつなげます。
人的資本の情報開示の項目と進め方
可視化した指標は、最終的に情報開示という形で外部へ伝わります。開示には法律で決められた項目と任意で示す項目があり、両方を理解しておく必要があります。
有価証券報告書で求められる開示項目
有価証券報告書を提出する上場企業には、人的資本に関する記載が義務づけられています。対象はおよそ4,000社に及びます。
義務となる記載は、人材育成方針と社内環境整備方針、そしてそれらに関する指標と目標、実績です。女性活躍推進法などに基づき公表している企業は、女性管理職比率、男性育児休業取得率、男女間賃金差異の3指標も記載します。
2026年3月期以降は開示項目がさらに広がります。経営戦略と結びつけた人材戦略、その戦略を踏まえた従業員給与などの決定方針、平均年間給与の前年度比増減率が新たに加わりました。
開示を支える4つの要素
可視化指針は、開示を4つの要素に沿って組み立てる枠組みを示しています。国際的な非財務情報開示の考え方と共通する構造です。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| ガバナンス | 人的資本の機会やリスクを監督する体制 |
| 戦略 | 人材への投資が事業や財務へ及ぼす影響 |
| リスク管理 | 人材課題を識別し評価し対処する過程 |
| 指標と目標 | 機会やリスクを測る指標と達成目標 |
この4要素で整理し、ピープルアナリティクスとは何かを理解してデータを活用すると、単なる数値の羅列ではなく、経営と人材のつながりが伝わる開示になります。
可視化から開示までのロードマップ
可視化を開示へつなげるには、段階を踏んで進めます。数値を集める前に、自社の物語を描くことが出発点です。
- 経営戦略と人材戦略のつながりを描き、目指す組織像を定める
- 現状を指標で測り、目標との差を把握する
- 差を埋める施策を決め、優先順位をつける
- 指標と目標を開示し、進捗を継続して報告する
2026年3月に公表された可視化指針の改訂版は、経営戦略と人材戦略の連動を第1部として重点的に扱っています。あるべき組織や人材の姿を先に描き、そこから必要な投資を整理する流れが推奨されています。
開示で意識したいポイント
開示は数値をそろえるだけでは投資家に響きません。自社ならではの物語として語ることが評価につながります。
- 経営戦略と指標のつながりを一貫して示す
- 他社と比べられる標準指標と独自指標を組み合わせる
- 目標に届かない項目も課題と対策を添えて開示する
投資家は完璧な数値より、課題を認識して改善に取り組む姿勢を見ています。正直な開示がかえって信頼を高めます。
人的資本の可視化に役立つツールの選び方
人的資本の可視化を手作業で進めると、データの収集と集計に多くの時間がかかります。ツールを使えば指標の管理から開示資料の作成までを効率化できます。
タレントマネジメントシステムの活用
タレントマネジメントシステムは、社員のスキルや評価、キャリア希望などの人材データを一元管理する仕組みです。散らばっていた情報を集約し、可視化の基盤をつくります。
蓄積したデータはグラフやダッシュボードで表示でき、人材配置や育成の判断に役立ちます。エンゲージメント測定やスキル分析の機能を備えた製品も多く、可視化と施策実行を一つの画面でつなげられます。
開示データを集約する仕組み
情報開示を見据えると、指標をレポートの形にまとめる機能が重要になります。製品によっては開示用のテンプレートやISO30414に準拠した項目をあらかじめ用意しています。
独自に開示したい項目もグラフ化でき、有価証券報告書や統合報告書への転記がしやすくなります。手集計に頼らず、最新の数値を自動で反映できる点が集約ツールの利点です。
自社に合うツールを選ぶ基準
ツール選びで迷ったら、次の順序で絞り込むと失敗を防げます。多機能さより、自社の目的に合うかを優先します。
- 導入目的を明確にする、可視化か開示か育成か
- 企業規模と運用体制に合うかを確かめる
- 投資に見合う効果が得られるかを見積もる
まず従業員満足度調査ツールなどで現状を数値化し、そこからタレントマネジメントシステムへ段階的に広げる進め方が現実的です。小さく始めて効果を確かめながら拡張すると、定着しやすくなります。
まとめ:人的資本の可視化は指標設定と開示ストーリーが鍵
人的資本の可視化とは、人材の価値を指標に置き換えて把握し、情報開示へつなげる取り組みです。本記事では可視化の意味と可視化指針の位置づけ、開示で使う指標とKPIの決め方、開示項目と進め方、支援ツールの選び方を解説しました。
本記事のポイントをおさらいします。
本記事のポイント
- 可視化は人材の価値を指標に置き換え、経営戦略と結びつける取り組み
- 7分野19項目やISO30414を参考に、自社の課題に合う指標をKPIとして選ぶ
- 現状把握から開示まで、自社の物語として一貫したロードマップで進める
指標の選定と開示ストーリーの組み立てを押さえれば、人的資本の可視化は投資家との対話を深め、企業価値の向上へつながります。自社の現状を数値で捉えるところから、着実に一歩を踏み出せます。
人的資本の可視化や開示への対応でお困りの場合は、お気軽にお問い合わせください。具体的な進め方をまとめた資料もご用意しています。
人的資本 可視化に関するよくある質問
参考文献
執筆者
編集部
クロステック(産業×テクノロジー)の専門メディア「Tech With」の公式編集部です。多角的なリサーチと、各バーティカル(建設・農業・金融等)の現場キーマンへの丁寧な取材を通じ、DX推進や先端技術導入の全体像を分かりやすく体系化して皆さまにお届けします。
監修者
リサーチチーム
クロステック(産業×テクノロジー)の市場動向や先端事例、補助金情報などを多角的に調査・分析する専門チーム。AIを活用した網羅的リサーチと、現場取材に基づく一次データを組み合わせ、ビジネスの意思決定を支援する独自レポートや体系的なガイドラインの作成・監修を行っています。
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